元利均等返済にかかわる論点
1. 住宅ローン計算等の計算では年利を提示しつつも、「月利=年利÷12」としているが、一種の複利計算として考えられるので、本来、「(1+月利)の12乗 =(1+年利)」とすべきではないか? 

   「(1+月利)の12乗 =(1+年利)」として月利を定めるべきとの考え方は、いわゆる理論上の割引現在価値の考え方としては至極当然です。 元本、利息の区別なくキャッシュフローを取り扱う場合には、毎期のキャッシュフローを現在価値に直す場合に、一期間の割引率をrとして、第1期から第N期までのキャッシュフローを C(1),C(2),,,C(N)とすれば、これを現在価値に直す場合には,
 それぞれ、C(1)/(1+r), C(2)/(1+r)^2,,,C(N)/(1+r)^n となります。 (ただし / は除算 を ^は階乗を示す。)
ここで、1期間を1ヵ月としてかんがえれば、第12期のキャッシュフローは、C(12)/(1+r)^12となるわけで、もし年利が最初に示されておりこれを月利に引き直すのであれば、「(1+月利)の12乗 =(1+年利)」となる月利が定められるのが理論的であることになります。

 では、 月利=年利÷12 とするのは不当表示なのでしょうか? 実際 理系専門系統の方から、提示したシュミレーションでも「月利=年利÷12」と扱っていることから時々ご指摘をいただくことがあるのですが、これは現状の商習慣、法規制、会計制度に鑑みて判断すれば、おそらく妥当な表示と判断されると思います。まぁ実際上は、大半の場合は事前説明のパンフや契約時の金銭消費貸借契約書にも年利を月数で割って月利として毎月計算をする旨が記されてるのであまり問題にならないのですが。
 その点を別にしても、まず商業金融取引の慣習として、貸付利息は貸主が貸付元本を一定期間、借主へ貸付ける事に対しての対価であるとされるのですが、この対価である貸付利息は前取りする事も、貸付期間中の特定期間ごとに受取る事も、そして、当然貸付元本の回収時に元本と一括して回収することも認めらています。キャッシュフロー上の割引率を実質上の割引率と表現して、商習慣上の契約利率を名目利率とすれば、名目利率が定められていても実質上の割引率はある程度の幅で名目利率を上回ることが許されていることになります。
 また、法規制との関係では、いわゆる預金取引では元本成長型の複利の預金取引が認められている一方で、貸付に関しては当初の借入元本に利息を加えて新たな元本と看做して計算する事が禁じられています。(債権確定主義) 平たく言ってしまうと利息の回収ができずに、未収利息が発生したとしても未収利息部分に無条件で金利を付す事はできないのです。(そのかわり、通常は期日後については、通常より高めの金利を適用する旨の特約がつけられます。)。
 これらの点を考慮して通常住宅ローン等の元利均等返済方式の借り入れを検討すれば、まず元本の一部分は毎月回収されていくので、理論上の複利計算が行われていると考えるとしても、いわゆる法が禁じている雪達磨式に元本が増加していく状態ではない事、また名目年利で契約してあっても単利ベース(元本×月数×年利率/12)での月々の利息の徴求も商習慣に照らして不当とはいえず、元利均等返済では毎月単利ベースで使用元本に対しての利息を支払っているにすぎないと言える事から現行法・慣習の下では「月利=年利÷12」の下での月利計算は差し支えないと考えます。
 また、会計は一般に事実と慣習と判断の総合的な産物と言われますが、その会計制度上においても近年 退職給付会計やリース会計において割引現在価値に基づいた考え方が導入されてはいるものの、その一方で少なくとも一会計期間中期中に於いては期中に発生した収益の TIME DIFFERENCE は考慮されず等額は等価として扱われている点、単利ベース(元本×月数×年利率/12)での月々の利息の計算も広く容認されている点 等を考えれば、「月利=年利÷12」とする表示・方法が理論的根拠は別にしても採用されうるものだと言えます。。


      


     
2. 元利均等返済は元金均等返済と比べるとて多くの利息を払うこととなるので利用者にとって不利なのではないか?

元利均等返済とは、利息と元金の返済の合計の毎月の支払額を一定にして返済を行う方法です。 これに対して
、 元金均等返済とは 元金の毎月の返済額を一定にして、この一定の元金の返済額に毎月の利息額を加えて毎月の支払いをする方法です。

すると、元利均等返済は毎月の支払額に占める元本返済の割合が返済当初は低くなりますので、利息の「支払総額」のみを比較すれば元利均等返済の総支払利息額のほうが高くなります。

数学的なイメージで簡単に説明すると、縦軸に借入残高、横軸に返済期間をとった場合に 元利均等返済の借入残高は上に凸なグラフになります。 一方 元金均等返済額の借入残高のグラフは右下がりの直線です。
すると借入時点と返済時点の間のどの時点でも元利均等の残高は元金均等返済の残高を必ず上回るか等しいことになるので、元利均等返済の利息の支払総額は必ず元金均等返済の利息の支払額を以上になるになります。

具体的にシュミレーションしますと 借入総額360万円 借入利率12% 返済回数36回(36ヵ月、3年)のケース(1) では、
 元利均等返済の毎月の支払額は119,572円(最終回のみ端数処理のため 119,531円) 利息総額704,551円に対して、

 元金均等返済の毎月の支払額は当初 136,000円 から、元本が減るので支払は毎月1000円づつ減っていき、最終回は101,000円の支払いになります。 そしてこのときの利息総額は666,000円です。

利息の支払総額は元金均等のほうが 38,551円 支払総額は安くなっています。

    もう一つ、長期の住宅ローンの場合を想定してみましょう。借入総額3600万円 借入利率3% 返済回数360回(360ヵ月、30年)のケース(2) では、
 元利均等返済の毎月の支払額は151,777円(最終回のみ端数処理のため 151,755円) 利息総額18,639,698円に対して、

 元金均等返済の毎月の支払額は当初 190,000円 から、元本が減るので支払は毎月250円づつ減っていき、最終回は100,250円の支払いになります。 そしてこのときの利息総額は16,245,000円です。

利息の支払総額はなんと元金均等のほうが 2,394,698円 も支払総額が安くなっています。

,以上ケースで確認した通り、利息の「支払総額」のみに注目する限りは、同じ借入金額、借入利率、借入期間であれば元金均等返済のほうが有利 元利均等返済のほうが不利というのは命題としては確かに成立します。

ですが、私見では利息の「支払総額」のみで有利・不利を論じて本当によいのか?という感じがします。

ケース(1)では当初の支払額は13.6万と約12万でこの差はあまり重要でないかもしれませんが、ケース(2)では19万と約15.2万円では差額は約4万円です。
  生活者としては約4万円の差額は結構大きなところで、そもそも最初の19万円のキャッシュアウトに耐えられないケースはありそうです。

また、経済学の考え方を援用すると各経済主体、各個人はそれぞれの固有の割引率があるとされます。
 
簡単にいえば、将来にわたる支払額のキャッシュ・フローの評価は人によってそれぞれ違ってくるということで、
2つの異なるキャッシュフローを比べるときに人によって有利・不利の合理的な判断が異なるケースがでてくるということです。

具体的な数値例を示しますと、
今何にでも自由に使える100千円があるとして、
     「これを今は使わずに、ちょうど一年後に自由に使えるお金として受け取るとしたら?」一体いくらだったら今の100千円を使わないで1年後に使いますか?あるいは逆に今 自由に使える100千円を受け取るために一年後にいくらまで自由に使えるお金が減ることを我慢できますか?

という問題を考えたとき現在の100千円の代わりに一年後のお金として要求あるいは申し出する金額はひとそれぞれ違うだろうということです。

Aさんにとっては現在の100千円と一年後の103千円と等しいけれど、Bさんにとっては現在の100千円と110千円と等しいということはあり得るわけです。この金額は人それぞれ異なると考えるのが妥当でしょう。

ここでもし、金融市場の利子率が5%だとすれば A さんは持っている100千円を金融市場で貸し手となり1年後に105千円として受け取れば、自身の満足度は今の100千円と等しい一年後の将来の103千円より一年後の評価で2千円高まることになります。反対にBさんは100千円を借り手として調達すれば一年後は105千円だけ返済すれば良いので,自己の割引率では110千円支払うところから 5千円分 一年後がお得に感じることになります。

そしてこのように考えていくと、金融市場の利子率は資金の貸し手と借り手の社会全体の需給額を等しくするところで決定されることになります。自己の割引率が市場の割引率より低い経済主体は資金の供給サイドとなり、自己の割引率が市場の割引率より高い経済主体は資金の調達サイドになることになります。

この点に注目すれば、そもそも資金の調達サイドの経済主体の固有の割引率は市場の割引率(利子率)より高いはずだという事になります。
言い換えれば借入金額とくらべて、固有の割引率で評価した元利金の支払総額のキャッシュフローの現在価値は安くなるからこそ借入をしていると考えるわけです。

そして借入サイドの固有の割引率が市場利率より高いという前提で考えると命題の結論は異なります。

元金均等返済キャッシュとフローを元利均等返済のキャッシュ・フローを借入利子率より高い割引率で現在価値として評価した場合には
元金均等返済のほうが元利均等返済のキャッシュ・フローより高い絶対値で評価されます。

つまり経済主体にとっては元利均等返済のほうが「自己の割引率で評価して」有利ということになります。

ちなみに利子率を割引率として用いた場合には、元金均等返済の現在価値も元利均等返済の現在価値も借入金額と等しくなります。

この点は若干不思議な感じがする方もいるかもしれませんが、そもそも割引現在価値の考え方を採用した場合に、利息は一定額のキャッシュフローの時期を将来へ先延ばししたことによる 効用の補填分ですから、
借入金額の各返済部分について返済時までの利息が付されている限り 各返済部分の返済時までの利息および元本を利子率で割引すると現在価値は各返済部分の元本額と必ず等しくなるので
元金均等返済・元利均等返済に限らずどのような返済パターンであっても借入額と等しくなります。

逆説的ですが、「利子率を割引率として用いた場合には、元金均等返済の現在価値も元利均等返済の現在価値も借入金額と等しくなる」という点が納得できれば
スペシャルケースとして割引率ゼロの支払総額で評価した場合に元金均等のキャッシュフローの評価は元利均等のキャッシュ・フローの評価より低い絶対値で評価されたわけですから、
逆に割引率が利子率を上回れば元金均等のキャッシュフローの評価は元利均等のキャッシュ・フローの評価より高い絶対値で評価される、
つまり借入サイドの固有の割引率が市場利率より高い場合には元金均等返済は元利均等返済より不利(と評価される)ことも納得できるかと思います。

ただし、この経済学を援用した考え方は現実に即して考えるといろいろ問題がありそうです
。 まず、一番の問題はお金を借りる人は借りたほうが有利だから借りているという前提ですが、
あるいはお気づきかも知れませんが、この場合の有利・不利はもそも自分で借りなくても良いだけの十分なお金を持っているということを仮定しています。

すると、お金を借りるという選択肢がない場合には個人にとっての割引率が利子率を上回っている保証は何もないことになるわけです。
現実に住宅ローンなどの大きな金額の場合にはキャッシュで買えるお金を持っている人はほとんどいないのではないでしょうか?

個人にとっての固有の割引率が存在することは妥当であるにしても、ローンの借り手の固有の割引率が利子率より高いと仮定してしまうところは必ずしも妥当ではないように思います。
そして、固有の割引率が利子率より低ければ、命題の結論は最初に戻り、元金均等返済と元利均等返済では元金均等が有利ということになります。

さらに言えば、そもそも将来キャッシュ・フローを評価する場合には将来の経済環境の予想に基づくはずですが、例えばバブルの時期のように賃金の上昇率・物価の上昇率が高い場合には
相対的に将来の支払額の負担感は軽減されるわけなので、将来支払額のキャッシュ・フローの評価額は減少するのが自然でしょうし、

ここ近年のように賃金の上昇率・物価の上昇率がほぼゼロあるいはマイナスの場合には逆に相対的に将来の支払額の負担感は増加するので、将来支払額のキャッシュ・フローの評価額は増加すると考えるのが一般的でしょう。
そして、この点はまさに個人の主観的予想によっても当然影響されるわけで、
たとえ近年のデフレの状況下であっても、自分の能力に自身のある個人が自身の将来賃金の増加を予想する場合には将来支払額のキャッシュ・フローが 相対的に減少するケースもあり得るわけです。

さらに言えば、事前の予想と事後の結果が違うことも当然あるわけですし、
そもそも、各人の人生において、お金の必要な時期あまり必要でない時期は異なります。

つまり、独身、結婚直後、子供の成長期、教育期、退職期、年金生活期といういろんな場面があり、どこの時期をどれだけ充実させたいかはまさに個人の主観による決定の問題ですので、
将来キャッシュフローの評価はそれぞれの人のライフサイクル・価値観によっても異なってくる訳です。

このように考えていくと、非常に面白みのない結論で申し訳ないのですが、
そもそも将来キャッシュ・フローを比較するうえでの判断の基準として 各人が将来の予想をしっかり行った上で、どのような人生を送りたいかを考えた上でこれからの生涯の資金収支の計画をしっかり作っておくことが重要であるということになると思います。



     

3. 元利均等返済のボーナス返済(6か月毎の増額返済)併用の場合はどの様に計算するのか? また どの様な組み合わせが有利か? 

元利均等返済とは、利息と元金の返済の合計の毎月の支払額を一定にして返済を行う方法です。 ボーナス時の増額返済は6か月枚の増額部分の支払額が毎回一定になります。
ボーナス返済併用の場合の元利均等返済の算出方法は、まず借入金のうちボーナスで返済する部分の元金を定めて、これについて支払い終了時までの増額元金返済回数と年利÷2とした期間利率(6か月毎に適用する利率)の下での増額返済額を計算します。 毎月の一定部分の支払額については、ボーナス返済以外の元金部分については通常の元利均等返済額の計算を行って計算し、増額月の支払額はこれに上記の増額返済額を加算して求めます。 元利金の支払総額で有利・不利を判断するのであれば、明らかに元金の割合は極力ボーナス返済部分を少なくしたほうが有利です。 なぜなら金利の発生の源泉である元本が減っていくタイミングは毎月返済部分の方が早い結果、支払利息は少なくて済むからです。 逆に将来キャッシュ・フローは現在割引価値で評価する考え方からは 2の問題と同様の理由で 個人の割引率によっては 支払のタイミングが増額返済部分のほうが遅いため、ボーナス返済部分を多くしたほうが有利という結論になり得ます。 、

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